kimmaのシネマブログ

映画とたまに本・ドラマの感想・自分なりの解釈について。あくまで1個人の意見です…

『わたしはロランス』

〇作品概要

・2012年のカナダ・フランスの合作映画

・監督:グザヴィエ・ドラン

・あらすじ

 ロランス(メルビル・ブボー)は、ある時恋人のフレッド(スザンヌ・クレマン)に、自分はずっと女性になりたかったのだと告白する。フレッドは、はじめは取り乱すも、彼を見捨てることができず、彼の一番の理解者になることを決意する。一方で、ありのままの自分でいようと、女性の恰好をするようになったロランスは、そんな自分に対する社会の風当たりの強さに戸惑いを隠すことができない。本作は、普通の恋人でいられなくなった2人の10年の愛を描く。

 

〇感想・見どころ ※多少のネタばれ含みます

 本作は、ロランスとフレッドの複雑な関係と、複雑な感情、そしてそれを乗り越えようともがく2人の姿がなんとももどかしく、ただ愛があるだけではうまくいかない人間関係の難しさについて、ドラン監督ならではの独特な世界観で表現された、新しい愛の形の物語であった。そして、ドラン監督が生み出す、相変わらずエネルギッシュな登場人物たちと、特徴的な音楽の使い方、予想だにしない演出に終始圧倒された。

 ロランスとフレッドの、お互いがとても大切な存在だとわかっていて、一緒にいたいのになぜだかうまくいかない関係が、観ていてとにかくもどかしい。特に、恋人に「本当は女性になりたかった」と打ち明けられたフレッドの苦難は、どれほど大きかっただろうか。家族から別れるように言われても、それでもロランスのそばに居続けることを選び、ロランスがメイクをするのを手伝ってあげる彼女の姿からは、フレッドが一人の人間として、ロランスのことを心から愛しているのだということが伝わってきて、なんとも言えない感情になった。そんなフレッド演じるスザンヌ・クレマンの演技に最も圧倒されたのは、ロランスとフレットが2人でレストランに行った時のシーンだ。店員がロランスの女装について長々とからかっていると、我慢できなくなったフレッドは遂に立ち上がり、これでもかと言うほど店員に対して怒りをぶちまける。その怒りのエネルギーのすごさに圧倒されると共に、彼女の発する言葉は、ロランスのような人々を無意識的に稀有な目で見てしまう、画面越しの観客たちにも向けられているようで記憶に残った。

 また、本作では想像を超える演出が数多く観られる。その中でも最も印象的だったのは、2人が一度別れた後、数年後に再開を果たし、再度2人で生きていこうと決意をして街を一緒に駆け抜けるシーンだ。その時、なんと空からは様々な色の服が降ってくるのだ。これはポスターのビジュアルになっているシーンでもある。原色が目立つ色とりどりの服からは、まるで今2人は、私たちが生きている世界とはどこか別の、空から服が降ってくるような世界にいるように感じて、2人の高揚感がより一層伝わってきた。これまで出会ったことのない光景故に、とても記憶に残るシーンであった。本作には、他にも予想を超えた演出が数多くある。グザヴィエ・ドラン監督作品は、他作品においても独特な表現が観られることが多く、毎回感嘆させられる。これまで観たことのない世界観を体験したい人は、彼の作品は必見だ。