kimmaのシネマブログ

映画とたまに本・ドラマの感想・自分なりの解釈について。あくまで1個人の意見です…

『マイ・ブロークン・マリコ』監督:タナダユキ

 

(C)2022映画「マイ・ブロークン・マリコ」製作委員会

〇感想・見どころ 

あらすじとビジュアルを観て、「これはすごそうだ!」と思い、期待が高まっていただけに、正直期待を上回らなかったという印象。インパクトのあるポスタービジュアルは非常に好きなのだが…。何かを強く訴えるような永野芽依のまなざしが印象的で、2022年の中でもベストに入るデザインだった。

内容的には、確かにこれまでのイメージにはない永野芽郁が見れるという点や、死んだ親友の遺灰を奪って旅するというストーリーは、新鮮で興味を惹かれるものであった。だけど、観終わった後に正直少し物足りないというか、自分もシイノと一緒に号泣できるほど没入することができなかったというのが正直な感想。その理由は、恐らくマリコとシイノの友情がどれほどであったのか、シイノがマリコをどれほど愛しているのかがそこまで伝わって来なかったからではないかと個人的には感じた。2人が出会ってから親しくなるまでの回想シーンは何度か出てくるのだが、それでもなんだかシイノに心から共感し、感情を揺り動かされるということがなかった。役者陣の演技というよりかは、物語の構成というか描き方に要因があったような気がする…。

一方で、ストーリーの内容は、大切な人を失った後にどう生きるか、辛い明日をどう乗り越えていくのかという深いメッセージ性が込められていて考えさせられる部分があった。こういった作品は、邦画ではあまりない印象なのでその点はとてもよかった。

 

 

『すずめの戸締まり』監督:新海誠

ポスター画像

(C)2022「すずめの戸締まり」製作委員会

 

〇感想・見どころ 

 これまで、新海監督作品は、私的には正直言うと特別好きというわけではなかったけど、本作はこれまでと一味違った気がする。自分でも全く予想していなかったのだが、終盤に心にグッと来る場面があり、まちがいなく記憶に残る作品となってしまった。

 まず、作品の始め30分ほどの掴みが抜群によかったと思う。廃墟にぽつんとある不思議な扉、謎の青年、鈴芽にしか見えていない町の異変…。「何が起こっているの⁉続きが観たい!」と思わされる要素が一気に押し寄せ、一瞬で物語の世界に引きこまれた。また、もう一つ没入できる要素としては、やはり本作のキーワードとなっている”地震”があると思う。これは、恐らく日本人の多くの人にとって身近なものであり、もはや耳馴染みの音となってしまった緊急地震速報のアラート音などが聞こえてくると、やはり無意識に緊張感を感じて、目を離せなくなってしまうのだ。だからこそ、鈴芽が成し遂げようとすることに、日本人ならきっと多くの人が興味を持ってしまうのではないかと思う。

※以下ネタばれ含みます

 そして、最後に鈴芽が小さい頃の自分に合うシーンは、とにかく心にジーンときた。あれは、鈴芽の母ではなく、大きくなった鈴芽だったのか!と驚愕。何より、大きくなった鈴芽が、小さな自分にかける言葉は、全てが本当に温かくて、あの言葉に救われる人はたくさんいるのではないかと心から感じ、涙が止まらなくなってしまった。私は幸いにも被災者ではないが、それでもなんだか救われたような気持ちになり、自分でも驚くほど泣いた。それほどに本作は、これまでの新海作品と比べて、とにかくメッセージ性が強く感じられるものだったと思う。美しい世界感や、現実のリアルな街並みを描くことで、共感させるテクニックに長けている新海監督だからこそ、こういったメッセージをこれほど心に響くように描くことができたのではないか。

 

『ラーゲリより愛を込めて』監督:瀬々敬久

〇作品概要

・2022年公開の邦画

〇感想・見どころ 

久しぶりに、心から観てよかったと感じた。そして、何より一人でも多くの人が観るべき作品だと思った。

本作には、確かに『NOPE』や『RRR』に感じられるようなエンタメ性や興奮はない。だけど、あのような過去や歴史があったのだという、日本人として知っておくべきことが、時には痛切にしっかりと描かれている。それだけでなく、そういった過酷な状況や絶望的な状況に陥った時に、人はどう乗り越えていくのか、どうやって少しでも前向きに生きていくのか、という現代の我々にもあてはまるような普遍的なことが描かれていることで、遠い過去の話では終わらずに、共感することのできる作品となっていた。
 それらを踏まえると、本作が良作だと思えた要素は、戦争という暗い側面を描く陰の部分と、家族愛などの感動的な面を描く陽の部分のバランスが、非常によかったからだと思う。仮に、”愛”に重きを置いて描いたとしたら、お涙頂戴映画になりすぎて、感情移入できなかっただろう。全体的なバランスがとれているからこそ、ラスト30分はもう感情が揺さぶられるままに、号泣するしかない。それは、最後に、本当に実話なのか⁉と思うくらい、人の温かさを心から感じる素晴らしい真実が発覚するからだ。こういう形で、戦争の悲惨さや、戦争がどういうものであるかを伝えるというのは、とても意義のあることだと感じて、本作に称賛を送りたくなった。

 

『あのこと』監督:オードレイ・ディヴァン

ポスター画像

(C)2021 RECTANGLE PRODUCTIONS - FRANCE 3 CINEMA - WILD BUNCH - SRAB FILM


〇作品概要

・2021年製作のフランス映画

・原作の作者の実体験に基づく話

ベネチア国際映画祭にて金獅子賞受賞

〇感想・見どころ 

本作は、中絶が違法だった1960年代のフランスで、思いがけず妊娠してしまった大学生の少女が、学業を続けるためにどうにかしようと奮闘する話だ。

これほど痛みが強烈に伝わってきたことが、未だかつてあっただろうかと思える作品。通常ならば描かないというか、必ず目を背けたくなるようなことをきちんと描ききっていることで、観客はその痛みから逃れられず、否が応でも彼女の苦しみを共に体験しなくてはいけなくなる。その痛みは見ていて本当に震え上がるほどリアルだった。無意識に思いっきり痛みを感じて、顔をしかめている自分がいた。そのリアルさを表現している主演の女優アナマリア・ヴァルトロメイが本当に素晴らしい。目力がすごくて、緊迫感や焦燥感がヒシヒシと伝わってきた。

息をするのも忘れるような作品とは、まさにこういうことだと実感した。

一生忘れられない作品になること間違いない。

いい意味で強烈だった…

『ある男』監督:石川慶

〇作品概要

・2022年公開の邦画

〇感想・見どころ 

音楽が少ないため全体的に静寂に包まれ、やや重めな雰囲気だが、時おり恐怖心を感じる場面で効果的に音が加わることがあり、音響の緩急のつけ方がすばらしかった。また、カメラワーク含む演出の仕方も印象的だった。

豪華な実力派俳優たちが集結していることで、言わずもがなの説得力が全てにおいて感じられた。中でも、安藤サクラさんの大切な人を失った喪失感や、どこにでもいそうな女性の演技がナチュラルすぎて衝撃を受けた。セリフ事態はありがちな言葉の場合でも、安藤サクラさんが口にすると一気に重みが増すように感じた。

鳥肌が立った場面は、妻夫木聡柄本明の演技バトルだ。それまで気丈に振る舞う弁護士(妻夫木聡)が、柄本演じる受刑者の前では動揺を隠せない。それまで妻夫木聡を中心に物語が進んでいたにも関わらず、一瞬で柄本明の世界に持っていってしまう恐怖というか狂気に度肝を抜かて、体の奥から震え上がりそうになった。

そして、最後の最後までメッセージが込められている点もまたいい。終わり方が個人的には好きだった。

※以下内容含みます

谷口の妻(安藤サクラ)が言ったように、今の目の前にいる相手を信じられればそれでいいというメッセージを残したかと思いきや、最後に本当にそれでいいのか??と惑わせられたことにいろいろ考えさせられた。個人的な意見としては、結局目の前にいる相手だけを信じるべきか、過去も全て知ったうえで相手を信じるべきかは、正解なんてなくて、ある意味賭けみたいなものなので、どちらかを選択して人間関係を築いていくしかないのだということを監督は伝えたかったのではないかと感じた。そもそも、人間なんて自分でも自分がどういう人間かわからないのに、他人がそれを全て知ろうとするのは無謀なわけだし。それでもこの人を信じたい!と思える相手に出会えたら、それが一番幸せなことなのだろう…

『ザ・メニュー』 監督:マーク・マイロッド

〇作品概要

・2022年公開のアメリカ映画

・ホラー、コメディ

〇感想・見どころ 

 情報解禁された時は、レストランが舞台のヒューマンドラマ的なストーリーかと思っていたが、予告を見て、「なんか違う!」と思ってから気になって仕方がなかった。そのわずかに感じた違和感や恐怖心が、映画を観るまで全くわからないという宣伝もよかった。

 一言でいうと予想できない展開により期待以上のおもしろさだった!予告で客たちが森の中を逃げ回るシーンがあったから、サバイバルゲームが始まるとかグロめのストーリーを予想していたのだが(笑)、実際は全然違った。

 ストーリーも面白くさせていた要因は何より濃い登場人物たちだ。とにかく謎に包まれて狂気を彷彿とさせるシェフ(レイフ・ファインズ)、物語を動かす招かれざる客マーゴ(アニャ・テイラー=ジョイ)、マーゴを誘った男(ニコラス・ホルト)。この3人のキャラが強烈でさすがの配役という印象。個人的に、ニコラス演じた最低な男が本当に最っ低すぎてツボだったw また、後半における、シェフとマーゴのバトルは必見。登場人物の中で最もまともな人物ともいえるマーゴが、冷静に分析した末に見出した策にはなるほど!!っと感心すると同時に、その時のシェフの反応からシェフの本心が垣間見えた場面には心を揺り動かされた。

 そして、本作はただのホラーコメディ映画ではなく、いろいろな風刺やメッセージが込められている点もまた魅力。特に頭でっかちな富裕層に対する風刺、労働環境の問題、芸術家の苦悩、志のない芸術家への怒りなど、振り返るといろいろなところにメッセージが散りばめられていたと気づく。そしてそういったメッセージ含め、本作では説明セリフがないところが個人的には非常によかった。例えば、それぞれの客たちがレストランに来た背景や具体的な情報については、冒頭で軽く触れるのみで、あとは観客の想像に任されている点がすばらしかった。

 

※以下ネタバレ含みます

 

 ラストシーンは、かなり考察しがいがありそう。結局彼らはなんで死ぬことを受け入れたのだろか...マーゴだけがシェフを喜ばせることができたから、脱出することを許されたのか…?個人的な意見としては、頭でっかちな客たちはどうしようもない状況に陥った場合、自分で対処できず、運命を受け入れるしかない人たちだという風刺が込められているように感じた。マーゴは自分の力で考え、必死に生きようとしたのに対して、裕福な客たちは結局口が大きいだけで大して何もできない人たちだということが対局的に描かれていたのではないか。また、途中のトルティーヤに描かれていたように、命と引き換えにしてまで暴かれたくない罪があったというのも、体裁を気にする裕福な者たちが死を選ぶ理由の一つだっただろう。そして、シェフがマーゴのおかげで希望を見出したかと思いきや、結局死を選択したことは、権力者たちは一人の芸術家を取返しのつかないほど狂気にさせたという、これまたメッセージが込められているように感じた。

 

 

『ひらいて』監督:首藤凜

〇作品概要

・2021年公開の邦画

・原作作者…綿矢りさ

〇感想・見どころ ※内容含みます

好きな男の子を手に入れるためならなんだってするし、他人の気持ちはおかまいなし!というスタンスで突っ走る主人公の木村愛(山田杏奈)が、いわゆる”やばい女”すぎてw、次々と予想を超えてくる彼女の行動から目が離せなかった。

木村愛がどれほどやばいかというと、ずっと好意を寄せている同級生のたとえ君(作間龍斗)が、同級生の美雪(芋生悠)と交際していると知った彼女は、あえて美雪に近づいて親しくなり、そのうえ美雪にガチで好きだと告白してキスやそれ以上のことまでしてしまう。そのうえ、たとえ君の前でいきなり制服を脱ぎ始め、どうやったら自分と付き合ってくれるか?と迫る。確実に敵に回したくないタイプの女だ(笑)そんな風に引くほど自己中に生きている愛に一撃を加えたのは、不幸にもたとえ君だった。「なんだかうそっぽい」「おまえみたいなの一番嫌い」「暴力的で何でも奪い取っていい気持ちになった気でいる」と散々に言われてしまった愛は、一見気にしていないのように見えて、実は言われた言葉が頭から離れない。そうして、調子が狂い始める愛の姿は、誰もが一度は感じたことのある自己嫌悪と葛藤するあの感情と同じで、ラストは愛に同情してしまう自分がいた。

本作では、自分のことしか考えない愛と、他人のことを思いやったり、他人のために行動することのできる美雪とたとえ君、という2つのタイプが非常に対照的に描かれている。愛は2人に出会ったことによって初めて”他人のために”という言葉の意味と、それに伴う行動を考えはじめる。愛ほどとは言わないまでも、欲しいものを手にいれようとすると周りが見えなくなってしまったり、無意識に自己中な行動をとってしまったことは多くの人があるだろう。だからこそ、鑑賞後には誰もが、ふと立ち止まって”他人のために”とは何だろうかと考え、少し優しくなれる作品だと思う。

何より、他人に向けた笑顔は、自分に向けた笑顔よりもずっと美しいのだ、という本作のメッセージがとても心に残った。