kimmaのシネマブログ

映画とたまに本・ドラマの感想・自分なりの解釈について。あくまで1個人の意見です…

『あのこと』監督:オードレイ・ディヴァン

〇作品概要

・2021年製作のフランス映画

・原作の作者の実体験に基づく話

ベネチア国際映画祭にて金獅子賞受賞

〇感想・見どころ 

本作は、中絶が違法だった1960年代のフランスで、思いがけず妊娠してしまった大学生の少女が、学業を続けるためにどうにかしようと奮闘する話だ。

これほど痛みが強烈に伝わってきたことが、未だかつてあっただろうかと思える作品。通常ならば描かないというか、必ず目を背けたくなるようなことをきちんと描ききっていることで、観客はその痛みから逃れられず、否が応でも彼女の苦しみを共に体験しなくてはいけなくなる。その痛みは見ていて本当に震え上がるほどリアルだった。無意識に思いっきり痛みを感じて、顔をしかめている自分がいた。そのリアルさを表現している主演の女優アナマリア・ヴァルトロメイが本当に素晴らしい。目力がすごくて、緊迫感や焦燥感がヒシヒシと伝わってきた。

息をするのも忘れるような作品とは、まさにこういうことだと実感した。

一生忘れられない作品になること間違いない。

いい意味で強烈だった…

『ある男』監督:石川慶

〇作品概要

・2022年公開の邦画

〇感想・見どころ 

音楽が少ないため全体的に静寂に包まれ、やや重めな雰囲気だが、時おり恐怖心を感じる場面で効果的に音が加わることがあり、音響の緩急のつけ方がすばらしかった。また、カメラワーク含む演出の仕方も印象的だった。

豪華な実力派俳優たちが集結していることで、言わずもがなの説得力が全てにおいて感じられた。中でも、安藤サクラさんの大切な人を失った喪失感や、どこにでもいそうな女性の演技がナチュラルすぎて衝撃を受けた。セリフ事態はありがちな言葉の場合でも、安藤サクラさんが口にすると一気に重みが増すように感じた。

鳥肌が立った場面は、妻夫木聡柄本明の演技バトルだ。それまで気丈に振る舞う弁護士(妻夫木聡)が、柄本演じる受刑者の前では動揺を隠せない。それまで妻夫木聡を中心に物語が進んでいたにも関わらず、一瞬で柄本明の世界に持っていってしまう恐怖というか狂気に度肝を抜かて、体の奥から震え上がりそうになった。

そして、最後の最後までメッセージが込められている点もまたいい。終わり方が個人的には好きだった。

※以下内容含みます

谷口の妻(安藤サクラ)が言ったように、今の目の前にいる相手を信じられればそれでいいというメッセージを残したかと思いきや、最後に本当にそれでいいのか??と惑わせられたことにいろいろ考えさせられた。個人的な意見としては、結局目の前にいる相手だけを信じるべきか、過去も全て知ったうえで相手を信じるべきかは、正解なんてなくて、ある意味賭けみたいなものなので、どちらかを選択して人間関係を築いていくしかないのだということを監督は伝えたかったのではないかと感じた。そもそも、人間なんて自分でも自分がどういう人間かわからないのに、他人がそれを全て知ろうとするのは無謀なわけだし。それでもこの人を信じたい!と思える相手に出会えたら、それが一番幸せなことなのだろう…

『ザ・メニュー』 監督:マーク・マイロッド

〇作品概要

・2022年公開のアメリカ映画

・ホラー、コメディ

〇感想・見どころ 

 情報解禁された時は、レストランが舞台のヒューマンドラマ的なストーリーかと思っていたが、予告を見て、「なんか違う!」と思ってから気になって仕方がなかった。そのわずかに感じた違和感や恐怖心が、映画を観るまで全くわからないという宣伝もよかった。

 一言でいうと予想できない展開により期待以上のおもしろさだった!予告で客たちが森の中を逃げ回るシーンがあったから、サバイバルゲームが始まるとかグロめのストーリーを予想していたのだが(笑)、実際は全然違った。

 ストーリーも面白くさせていた要因は何より濃い登場人物たちだ。とにかく謎に包まれて狂気を彷彿とさせるシェフ(レイフ・ファインズ)、物語を動かす招かれざる客マーゴ(アニャ・テイラー=ジョイ)、マーゴを誘った男(ニコラス・ホルト)。この3人のキャラが強烈でさすがの配役という印象。個人的に、ニコラス演じた最低な男が本当に最っ低すぎてツボだったw また、後半における、シェフとマーゴのバトルは必見。登場人物の中で最もまともな人物ともいえるマーゴが、冷静に分析した末に見出した策にはなるほど!!っと感心すると同時に、その時のシェフの反応からシェフの本心が垣間見えた場面には心を揺り動かされた。

 そして、本作はただのホラーコメディ映画ではなく、いろいろな風刺やメッセージが込められている点もまた魅力。特に頭でっかちな富裕層に対する風刺、労働環境の問題、芸術家の苦悩、志のない芸術家への怒りなど、振り返るといろいろなところにメッセージが散りばめられていたと気づく。そしてそういったメッセージ含め、本作では説明セリフがないところが個人的には非常によかった。例えば、それぞれの客たちがレストランに来た背景や具体的な情報については、冒頭で軽く触れるのみで、あとは観客の想像に任されている点がすばらしかった。

 

※以下ネタバレ含みます

 

 ラストシーンは、かなり考察しがいがありそう。結局彼らはなんで死ぬことを受け入れたのだろか...マーゴだけがシェフを喜ばせることができたから、脱出することを許されたのか…?個人的な意見としては、頭でっかちな客たちはどうしようもない状況に陥った場合、自分で対処できず、運命を受け入れるしかない人たちだという風刺が込められているように感じた。マーゴは自分の力で考え、必死に生きようとしたのに対して、裕福な客たちは結局口が大きいだけで大して何もできない人たちだということが対局的に描かれていたのではないか。また、途中のトルティーヤに描かれていたように、命と引き換えにしてまで暴かれたくない罪があったというのも、体裁を気にする裕福な者たちが死を選ぶ理由の一つだっただろう。そして、シェフがマーゴのおかげで希望を見出したかと思いきや、結局死を選択したことは、権力者たちは一人の芸術家を取返しのつかないほど狂気にさせたという、これまたメッセージが込められているように感じた。

 

 

『ひらいて』監督:首藤凜

〇作品概要

・2021年公開の邦画

・原作作者…綿矢りさ

〇感想・見どころ ※内容含みます

好きな男の子を手に入れるためならなんだってするし、他人の気持ちはおかまいなし!というスタンスで突っ走る主人公の木村愛(山田杏奈)が、いわゆる”やばい女”すぎてw、次々と予想を超えてくる彼女の行動から目が離せなかった。

木村愛がどれほどやばいかというと、ずっと好意を寄せている同級生のたとえ君(作間龍斗)が、同級生の美雪(芋生悠)と交際していると知った彼女は、あえて美雪に近づいて親しくなり、そのうえ美雪にガチで好きだと告白してキスやそれ以上のことまでしてしまう。そのうえ、たとえ君の前でいきなり制服を脱ぎ始め、どうやったら自分と付き合ってくれるか?と迫る。確実に敵に回したくないタイプの女だ(笑)そんな風に引くほど自己中に生きている愛に一撃を加えたのは、不幸にもたとえ君だった。「なんだかうそっぽい」「おまえみたいなの一番嫌い」「暴力的で何でも奪い取っていい気持ちになった気でいる」と散々に言われてしまった愛は、一見気にしていないのように見えて、実は言われた言葉が頭から離れない。そうして、調子が狂い始める愛の姿は、誰もが一度は感じたことのある自己嫌悪と葛藤するあの感情と同じで、ラストは愛に同情してしまう自分がいた。

本作では、自分のことしか考えない愛と、他人のことを思いやったり、他人のために行動することのできる美雪とたとえ君、という2つのタイプが非常に対照的に描かれている。愛は2人に出会ったことによって初めて”他人のために”という言葉の意味と、それに伴う行動を考えはじめる。愛ほどとは言わないまでも、欲しいものを手にいれようとすると周りが見えなくなってしまったり、無意識に自己中な行動をとってしまったことは多くの人があるだろう。だからこそ、鑑賞後には誰もが、ふと立ち止まって”他人のために”とは何だろうかと考え、少し優しくなれる作品だと思う。

何より、他人に向けた笑顔は、自分に向けた笑顔よりもずっと美しいのだ、という本作のメッセージがとても心に残った。

『LAMB ラム』監督:バルディミール・ヨハンソン

〇作品概要

・2021 年製作のアイスランドスウェーデンポーランド合作

・106分

〇感想・見どころ ※内容含みます

 これまでにあまり体験したことのない雰囲気の作品だった。全体を通してほとんど会話がなく、音楽もない。また、主な登場人物も4人と非常に限られており、出てくる場所も夫婦が住んでる山間のみだ。とてもポップコーンなんて食べられないよう静寂が終始蔓延しているため、それがより一層不気味な雰囲気を作り出し、何か悪いことが起きるのではないかとドキドキせずにはいられなかった。また、物語自体も、夫婦の過ごす田舎生活のように特段何か大きな事件が起きるわけではなく、穏やかにゆっくり進む。

 これだけ聞くとつまらないと感じる人も多くいるかもしれないが、その一方で奇妙な出来事はずっと画面の中で起こっているのだ。それは、マリア(ノオミ・ラパス)とイングヴァル(ヒナミル・スナイル・グブズナソン)という羊飼いの夫婦が、体の半分が羊で、半分は人間の体をした異様な生き物をアダと名付けて、まるで我が子のように育てているということだ。この世のものとは思えない奇妙な生き物の誕生を、あまりにも普通に受け入れ、普通に育てている様子は冷静に捉えると背筋がゾクっとする。その不気味な光景をじっと眺めているという体験が、本作の魅力であるに違いない。

 また、本作はキリスト教に関連していたり、聖書に基づいている部分が多いと感じた。例えば、物語はクリスマスの日から始まったり、聖書的にはキリストの誕生を知らされるのは羊飼いであり、キリストの母の名前はマリアであったりする。それに、羊はキリスト教徒を表すそうだ。こういったことから、アダという存在が、何か神からの送りものであるのか?マリアたちの元に生まれてきたのは必然だったのか?何か元になった聖書や神話が存在するのだろうか?…など鑑賞後にいろいろと考えてしまった。そのため、一見単純そうに思えて意外と考察のしがいがあるという点も本作の魅力であると感じた。

『川っぺりムコリッタ』監督:荻上直子

〇作品概要

・2022年公開の邦画

荻上直子のオリジナル長編小説を自身で監督・映画化

〇感想・見どころ ※内容含みます

あらすじだけや予告では想像できなかったのだが、本作は「生」と「死」について鮮明に描かれた作品だった。主人公の山田(松山ケンイチ)は、小さい頃に生き別れた父親が死んだと連絡を受け、遺骨を預かることになってしまう。山田の隣人の島田(ムロツヨシ)も、どうやら過去に息子がいたようだ。また、大家の南(三満島ひかり)は数年前に夫を亡くしており、山田の向いに住む溝口(吉岡秀隆)はお墓を売ってる。このように、登場人物全員の身近に「死」が存在しているのだ。そうして、「死」と密接に関わって生きている彼らだからこそ、その生活からは「生きている」ということが強く伝わってくる。例えば、彼らは経済的に裕福とは言えないが故に、庭で野菜を育てて自給自足の生活をしていたり、給料日に何日ぶりのご飯をとても美味しそうに食べる。また、隣人たちとは常に一緒にいるわけではないけど、困った時には黙って互いに助け合いながらなんとか一日一日を生きている。それらのシーンからは、”生命力”のようなものを感じざるを得えなかった。

人はいつか誰もが必ず死ぬわけで、それと同時にその時まで生きなくてはいけないわけでもあるのだが、どれほど辛くて大変なことがあろうと意外と何とかなる!炊き立てのご飯の香り、熱々の湯船に浸かること…そんな些細な幸せの積み重ねで意外と人間って生きていけるものだ…ということを、山田たちの細やかながらもたくさんのぬくもりに溢れている日々が教えてくれた。

『善き人のためのソナタ』監督:フロリアン・ヘンケル・フォン・ドナースマルク

〇作品概要

・2006年製作のドイツ映画

・138分

アカデミー賞にて、外国語映画賞受賞

ニューヨーク映画批評家協会賞にて、外国語映画賞受賞

 その他多数受賞

〇感想・見どころ ※ネタばれ含みます

舞台となった1984年の東ドイツには、未だ戦時中であるかのような秘密組織、監視、拷問が存在していたという史実にとても驚いた。そのような、当時の日常生活に蔓延する緊張感が終始画面から伝わってくる少し重めの雰囲気の作品だった。

本作は、秘密警察のビースラー(ウルリッヒ・ミューエ)が、反体制派の疑いのある劇作家のドライマン(ゼバスティアン・コッホ)の日常を、日中屋監視しする様子が描かれている。表情を一切変えることも動揺することもなく、いかにも恐ろしい秘密警察という様相のビースラーは、ドライマンを確実に”黒”だと決めてかかり、確証を手に入れるために家中に仕込んだ盗聴器で日常の会話を全て盗聴し、記録に残してゆく。しかし、ある時からビースラーはドライマンの怪しい動きや証拠となるようなものを耳にしても、記録に残さずになかったことにするようになる。一体ビースラーに何が起きたのだろうか。

恐らく彼は、盗聴を通じてドライマンの全てを知ることになったことで、彼に同情を抱くようになってしまったからであろう。人間は相手のことを知らない方が、相手を簡単に傷つけることができると思う。その一方で、親しい人を傷つけることはより一層大きな痛みを伴うことは容易に想像できる。だからこそ、ビースラーは日々監視する中で、ドライマンのことを知りすぎてしまったことで、彼を傷つけることができなくなってしまったに違いない。つまり、ビースラーは社会主義に反対意見を持つようになったから、ドライマンの味方をしたというわけではなく、単純にドライマンを同じ一人の同情するに値する人間として捉えるようになってしまったが故に、彼を守りたくなったのではないかと感じた。

そうして、結果的にドライマンはビースラーによって救われる。そして、何年も後に、実は自分がビースラーによって守られていたという事実を知ったドライマンは、ビースラーのためにある素敵な贈り物を送るのだ。この結末の展開がとても美しく、それまで本作では人間の冷酷な面や弱さばかりが描かれていただけに、一気に心が温かくなった。それと同時に、本来人間の心は温かいもので、どんな人でも必ず心に善良さを持っているのだという希望を与えてくれたようだった。

最後に、「善き人のためのソナタ」というタイトルにもとても深くて素敵な意味が込められているので、ぜひ実際に観て確かめて頂きたい。