『ある男』監督:石川慶
〇作品概要
・2022年公開の邦画
〇感想・見どころ
音楽が少ないため全体的に静寂に包まれ、やや重めな雰囲気だが、時おり恐怖心を感じる場面で効果的に音が加わることがあり、音響の緩急のつけ方がすばらしかった。また、カメラワーク含む演出の仕方も印象的だった。
豪華な実力派俳優たちが集結していることで、言わずもがなの説得力が全てにおいて感じられた。中でも、安藤サクラさんの大切な人を失った喪失感や、どこにでもいそうな女性の演技がナチュラルすぎて衝撃を受けた。セリフ事態はありがちな言葉の場合でも、安藤サクラさんが口にすると一気に重みが増すように感じた。
鳥肌が立った場面は、妻夫木聡と柄本明の演技バトルだ。それまで気丈に振る舞う弁護士(妻夫木聡)が、柄本演じる受刑者の前では動揺を隠せない。それまで妻夫木聡を中心に物語が進んでいたにも関わらず、一瞬で柄本明の世界に持っていってしまう恐怖というか狂気に度肝を抜かて、体の奥から震え上がりそうになった。
そして、最後の最後までメッセージが込められている点もまたいい。終わり方が個人的には好きだった。
※以下内容含みます
谷口の妻(安藤サクラ)が言ったように、今の目の前にいる相手を信じられればそれでいいというメッセージを残したかと思いきや、最後に本当にそれでいいのか??と惑わせられたことにいろいろ考えさせられた。個人的な意見としては、結局目の前にいる相手だけを信じるべきか、過去も全て知ったうえで相手を信じるべきかは、正解なんてなくて、ある意味賭けみたいなものなので、どちらかを選択して人間関係を築いていくしかないのだということを監督は伝えたかったのではないかと感じた。そもそも、人間なんて自分でも自分がどういう人間かわからないのに、他人がそれを全て知ろうとするのは無謀なわけだし。それでもこの人を信じたい!と思える相手に出会えたら、それが一番幸せなことなのだろう…