kimmaのシネマブログ

映画とたまに本・ドラマの感想・自分なりの解釈について。あくまで1個人の意見です…

『青の炎』監督:蜷川幸雄

〇作品概要

・2003年公開の邦画

・原作 貴志祐介「青の炎」

〇感想・見どころ ※ネタばれ含みます

冒頭シーンがとても印象的だった。主人公の秀一が体を丸めて大きな水槽のような中で横になっている。ぼっとしているかと思うとふと起き上がり、お気に入りのロードバイクを押しながら、自分の部屋として利用しているガレージの扉を思い切り開ける。すると、薄暗かった部屋に一気に光が差しこんでくるのだ。その雰囲気はなんだか神秘的な感じがして、これからすごい物語が始まるような予感を起こさせた。

また、秀一が義理の父を殺すために学校を抜け出し、父を殺すまでの一連のシーンも強く記憶に残った。秀一は、太陽がギラギラと輝く中を大粒の汗をかきながら、ひたすらにロードバイクをこぐ。その荒い息遣いから、これから人を殺すのだという彼の焦燥と緊張感、それ以外のことは一切頭にないというような心情がヒシヒシと伝わってきて、こちらも思わず息をするのを忘れてしまうようなシーンだった。

原作の作品紹介で日本版の「罪と罰」だと記載があったが、なるほどととても共感した。警察は、秀一が同級生を刺した理由を、同級生は秀一が父親を殺したことを知っていたために口封じで殺したと言っていたが、果たしてそうだろうか?私には、秀一が同級生を刺すという計画を立てた時、そして同級生を実際に刺した時に、このまま逮捕されて、運良くバレなかった義理の父の殺人の罪を償いたい、と思ったのではないかと感じてならなかった。だからこそ、彼は事件直後は罪を認めないものの、警察に全てバレたという確信を得ると、素直に諦めるのだ。それでも、最終的に自ら命を絶つという選択をしたのは、罪を犯した自分に耐えられなかったという点と、自分が殺人犯になったら母と妹に迷惑をかけることが申し訳ないと思ったからだろう。そもそも、義理の父を殺した動機は、家族を救うためだったのだから、後者の理由は秀一に相当重くのしかかってきたに違いない。そのような秀一の犯した罪への苦悩が、2時間の中で自分にも同じように押し寄せてきた点において、物語の構成や演出が優れていると感じた。

 

 

 

『この子は邪悪』監督:片岡翔

〇作品概要

・2022年公開のサスペンス映画

・TSUTAYA CREATORS’ PROGRAM FILM 2017 の準グランプリの映画化

〇感想・見どころ ※内容含みます

 冒頭から不気味さ全開で、一気に気味が悪くなった笑 本作品は、全体を通してとにかく音楽の使い方がうまかった印象。不気味な音楽が絶妙なタイミングで流れるので、それが余計に怖さを増大させる。ホラー映画が苦手なのだが、本作はホラーではないからいけると思って観に行ったのだが、想像以上に怖かったw 幽霊的な怖さというかゾッとする気味の悪い感じの怖さだ。

 この作品はいい意味で裏切られることが多く、はじめに懐疑的に思っていたことが、後半で徐々に明らかになっていく展開が爽快だった!!正直、はじめの方はウサギを大量に飼ってる家とかある?設定に無理ない??と思っていたのだが、まんまと騙された…!!ウサギではなくていけない理由がちゃんとあったのだ。また、お面を付けている妹の外見から、「この子は邪悪」の”この子“は妹のことで、妹が何かするのだろうなーと思っていたら、それもちがった。”この子“は全く予想だにしない人で衝撃!

予想していた真相とは全然違くて、何度も裏切られる展開が楽しかった。また、真相は全てちゃんと明らかにしてくれるのでスッキリして劇場を出れる点もよかった。

あとは、やっぱり南沙良の演技が相変わらずうまかった。口数は多くなくて、かつ結構ありきたりの感じのセリフばかりだった印象だが、それでも全てが自然だった。物語に引き込まれる要素に、南沙良の演技力がかなり大きく貢献していると感じた。

『千と千尋の神隠し』監督:宮崎駿

〇作品概要

・2001年公開のジブリ作品

ベルリン国際映画祭にて、金熊賞を受賞

アカデミー賞にて、長編アニメ映画賞受賞

 その他、多数の賞を受賞

〇感想・見どころ ※内容含みます

公開当時、劇場で観た時以来の鑑賞だったのだが、詳細までストーリーを鮮明に覚えていたことに自分でも驚いた。初めてみた時から今日までいくつもの映画を観てきたが、それにも関わらず、あの世界観に引き込んでいく力はやはり圧倒的に秀でていると感じた。最近ジブリ作品をよく観ているのだが、どの作品も大人でも一瞬で物語の中に連れていかれ、気づいたら主人公と一緒にワクワクしているのだ。宮崎駿の偉大さを改めて感じた。本作の魅力を語り出したらキリがないが、以下で3つだけ述べようと思う。

①あの世界に引き込まれる理由

本作品のこの没入感の原因を考えみた時に思い浮かんだことは、終盤に銭婆の元へ行く以外は、舞台が油屋で完結していることによってあの世界を想像しやすくなっているのではないかということだ。千尋は、作品の中で油屋の屋敷内外をよく走り回る。そのため、あの建物がどのくらいの大きさで、どんな内観・外観なのかが脳裏にはっきりと浮かんでくるたのだ。また、油屋の前にある屋台街(?)や豚小屋なども度々するため、油屋付近の構図や雰囲気も大体想像することができる。このように、油屋と街並みを鮮明にイメージすることができることによって、あの世界観がより一層伝わってきて、気づけば自分も千尋と共にあの世界にいるような感覚に陥るのではないだろうか。

②記憶に残る理由

ストーリーが記憶に残る一番の要因は、やっぱりあの個性豊かなキャラクターたちではないだろうか。湯婆婆やリンをはじめ脇役のキャラクターたちはどれも個性豊かで、なんだか全員に愛着が湧いてきてしまう。ジブリ作品の中でも特に、登場人物がかなり多いのではないかと思うのだが、見た目のインパクトも加わり、どのキャラクターも一度見たら忘れない特徴を持っている。そして、作り手の技術によって、全員が物語の中で生き生きとしているのだ。だからこそ、記憶に残るのではないだろうか。

ジブリの美しい”水”

個人的に好きな光景は、雨が降ったことによって油屋の周りが一面海になった時の美しい風景と、その中を電車が走っていくシーンだ。まるで海の上を電車が滑っていくようで、なおかつその海に空模様が反射しているのがとても美しい。もののけ姫でのシシ神が現れる池のシーンもそうだが、ジブリ作品に出てくる水はどこか神秘的でとても好きだ。

 

本作は、繰り返し見て深読みする事を楽しむこともできるとは思うが、基本的に1度観れば理解できるストーリーだと思う。それにも関わらず、何度も見たくなってしまう中毒性がある。何度でも千尋と共にあの世界に行き、おにぎりを食べながら一緒に泣いたり、湯婆婆を恐れたり、ハクの背中に乗って空を飛びたいと思ってしまう。その理由はもちろん上記に述べた以上にたくさんあるが、それがジブリ作品の偉大さであり、その魅力に心を動かされた人が世界中にいるということになんだか嬉しくなった。

『もののけ姫』監督:宮崎駿

〇作品概要

・1997年公開のジブリ作品

・監督:宮崎駿

〇感想・見どころ 

作品全体を包む神秘的な雰囲気に圧倒された。それには特に、かの有名な主題歌含む、音楽がとても作用していると感じて、改めて久石譲のすごさを実感した。

とにかくアシタカが人としてかっこよすぎた。全人類がアシタカのような人柄だったらこの世に戦争なんて起こらないのに…と思えるような正義感と道徳を持っていて、これは惚れないわけがない!アシタカのヒーロー性が、世の中で本作が愛されている理由の1つになっているのだろうと思った。

お恥ずかしながら初めての鑑賞だったのだが、神にまつわる伝説や、村に言い伝えられている話、呪いの話など、大人が観ても相当真剣に聞いていないと理解が追い付かないと思う部分もあったので、それにも関わらず当時かなりの興行収入を記録していることに驚いた。

この作品を観ていると、サンのように、自然を冒涜しすぐに戦争をする人間なんて嫌いだ!と思えてくる。人間はつくづくエゴの塊だと実感する。しかし、そこにアシタカという、争いを嫌い、自然との調和を図ろうとする存在がいることで、こういう人がいるなら人間が築く未来にも少しは希望を持てるかもしれないと思うことができた。

また、サンやアシタカが動物と会話をする場面が印象的で、動物の声が聞けると、不思議と一見怖い獣たちにも愛着が湧いてくる。森を破壊する人間たちは、きっと動物たちの声が聞こえないのではなく、聞こうとしないのだろう。サンやアシタカが不思議な力を持っているわけではなく、ただ耳を傾けるか傾けないかの違いなのだ。そうして、これまで人間は自分の欲望にしか耳を傾けずに歴史を培ってきたのだ、ということをつくづくむなしく感じた。

本作を観ると私たちの現代の生活が多くの自然や動物の犠牲の元で成り立っているのだと改めて痛感させられる。もののけ姫に出てくるような木々が生い茂る山奥の神秘的な場所や、神を感じられるような場所は、もうほとんどないのだということを改めて認識し、なんだか少し寂しくなった。だけど、本作を観れば、まだ神秘性が存在していた世界を少し味わうことができる。それが多くの人が本作を何度も見たくなってしまう魅力の一つではないだろうか。

 

 

 

 

『母の残像』監督:ヨアキム・トリアー

〇作品概要

・2016年公開のノルウェー・フランス・デンマークアメリカ合作映画

・監督:ヨアキム・トリアー

〇感想・見どころ ※ネタばれ含みます

「わたは最悪。」の世界観が好きだったので、同じ監督の作品を鑑賞。

数年前に亡くなった女性イザベルについて、その夫と息子たちが、改めて彼女の死の真相や人生について、各々思い巡らしていく中で、少し離れていた家族の距離感が近づいていく話だ。全てがわかりやすく語られる作品ではないため、登場人物の一つ一つの行動の意味を考える必要があり、一瞬足りとも目が離せなかった。

冒頭は、イザベルの長男とその妻が、誕生したばかりの息子を見つめるシーンから始まる。そのため、これから2人の物語が始まるのかと思ってしまうのだが、違うのだ。だが、それが冒頭に来た理由は全て見終わった後になんとなくわかってくる。

亡くなったイザベルは戦争写真家で常に死と隣合わせの仕事をしていたということもあり、この作品は死に触れるカットが度々出てくる。そうして、イザベルの死を考えること、イザベルの残した戦場の写真を見て死に触れること、親が亡くなってもそれでも子供は日々成長していること…それらが「生きる」ということで、生きているからできることなのだということを監督は伝えたかったのではないかと感じた。

だから、うまく説明できないけれど、生と死を描く本作において、生命の誕生の喜びに触れる瞬間を冒頭に持ってきたことには、監督の深い意図があったに違いない。

ラストは本当に不思議だ。イザベルの次男のコンラッドが見た幻想が映されるのだが、それはこんな場面だ。イザベルが、すごく年老いた老人と手をつないで息子たちの方へ向かってくる。そして、その老人は冒頭に出てきた赤ん坊だと、コンラッドにはわかった、という場面なのだ。

一体どういう意味が込められているのか…ここでもやはり常に生と死は隣合わせにあるということを伝えたかったのだろうか??もっと深い意味も込められていそうで、考えても明確な答えは出すことができなかった…

このラストは、ぜひ実際に観てみてほしい。久々にすごい作品を観たなという感覚になった映画だった。

 

 

『NOPE/ノープ』監督:ジョーダン・ピール

〇作品概要

・2022年公開のアメリカ映画

・監督:ジョーダン・ピール

〇感想・見どころ ※ネタばれ含みます

131分が、本当にあっという間だった。 

事前に一切の情報解禁がされてないという点と、空に現れた謎の物体に惹きつけられたのはもちろんなのだが、個人的に一番盛り上がったのは、後半の謎の飛行物体をカメラに収めるために、いよいよみんなで真向から謎の物体に立ち向かっていく場面だ。もう、席を立ちあがって応援したいくらい高揚したw 特に、主人公のOJが馬に乗って飛行物体から必死に逃げるシーンは「いけー!!」と叫びたくなった(笑)謎の物体と彼らが命を懸けて戦う姿が本当にかっこいいのだ!OJと妹のエメラルドがヒーローに見えてくる。そして、遂に謎の物体との闘いに勝利した瞬間は思わず席を立って、ガッツポーズをしたくなった。

中盤までは、ずっとハラハラドキドキで、息をのむような場面やゾッとする場面も多くて、スリラー映画だなあという感じがしていたのだが、ラスト1/3くらいは本当にワクワク感が止まらなくて、そういった作品自体の空気の変容がまた面白かった。

また、前半部分の飛行物体に対する恐怖感の募らせ方が巧みで、生体がわかってくればくるほどゾクゾクしてくる点が、ストーリーとしても非常によくできてるなと言う印象だった。

こういったドキドキ感と、ワクワク感に飲み込まれた作品は久しぶりで、これこそが映画体験だよなぁ!!と心から感じた。

 

 

『セイント・フランシス』

〇作品概要

・2022年公開のアメリカ映画

・監督:アレックス・トンプソン

〇感想・見どころ ※内容含みます

女性に寄り添ったとても温かな作品だった。

生理や中絶、レズビアンカップル、産後鬱など、女性だけにしかわからない問題がたくさん出てくる。本作で何度も伝えられることは、そういった一見話しにくいことに関する悩みでも、本音で話そう!ということだ。

主人公のブリジットは、ある時母親に「あなたが赤ん坊の時、全然泣きやまなくて、あなたの足を持って壁にぶつける想像をした」と告白される。「なんでそんなことを子供にいうの!?」と驚くブリジットに、母親はだってそれが本当のことだからと言うのだ。このシーンに、本作のメッセージが詰まっていたのではないかと思う。

それは、つまり、女性特有の悩みは本当に大変なことばかりで、それをわかりあえるのは、やっぱり女しかいない。だからこそ、ためらわずに本音で打ち明けてしまおう!そうすれば、少しは心も軽くなるのだということではないかと思う。

実際に、ブリジットが子守の仕事をするために通っていた家で、産後鬱になっていた母親に、上記のブリジットの母親のエピソードを告げると、彼女は泣き止みふっと笑い出す。

本作に出てくる登場人物の女性たちは、それぞれに女として生きるうえでの様々な悩みを抱えている。そのため、自分と同じ悩みを抱えている女性を一人は見つけることができるだろう。そして、観終わったあとには、肩の荷を下ろしてくれるような気持ちになれるだろう。また、こういった作品だからこそ、特にパートナーがいる男性にもぜひお勧めしたい。