kimmaのシネマブログ

映画とたまに本・ドラマの感想・自分なりの解釈について。あくまで1個人の意見です…

『マチネの終わりに』作:平野啓一郎(本)

〇感想 ※ネタばれ含みます

 最近は、古典ばかり読んでいだが、現代文学の恋愛小説でこれほどのめり込み、続きが読みたくなったことは久しぶりだった。

 内容は、大人な恋愛小説だなという印象。何度か出てくる蒔野と洋子の哲学的な会話の内容が深く、いろいろと考えさせられた。特に印象に残ったのは、作品中に何度か出てくる「未来は常に過去を変えている」という考えだ。過ぎ去ってしまった過去は変えることはできないが、その過去が良い思い出となるのか、思い出したくない出来事となるのかは、未来の自分のあり方や考え方によっていくらでも変わり得るのだということを、蒔野と洋子、洋子とその父との関係から知ることができた。

 蒔野と洋子の会話から感じられることは、二人は心の根本的な部分が同じで、感覚的にいろいろなことを共感できるし、言葉がなくてもわかりあえる関係なのだろうということだ。こういう2人のことを、まちがいなく”運命”と呼ぶのだろう。それにも関わらず、2人が結ばれることは阻むものは、40歳前後という彼らの年齢故に降りかかってくることだ。2人が抱えた悩みは、近しい年齢の人であれがより一層共感できるであろう。

 ”運命”的な関係である2人が、別々の道を歩み始め、それぞれの家族ができるも、人生の出来事の節目節目で、互いのことを想い出す様子は、読んでいてとても切なく、胸が締め付けられた。一方で、年月が経っても、辛い時だけでなく、嬉しいことがあった時にも、誰よりもそれを共有したいと思える人がいて、これから先もずっとその人が心の支えになっていくということは、羨ましくもあり、なんて美しいのだろうと感じずにはいられなかった。