kimmaのシネマブログ

映画とたまに本・ドラマの感想・自分なりの解釈について。あくまで1個人の意見です…

『流浪の月』監督:李相日

〇感想 ※ネタばれ含みます

 李相日監督の『怒り』を観た時の言葉で表現できない、心の奥深くから感情が溢れ出てくるような感覚が忘れられなかったため、本作も相当期待していたのだが、やはり予想どおり非常にすばらしかった。

 ここ数年、これほど観ていて感情に訴えかけてくる作品はなかった。演出、俳優の表情から、心の奥深くまで文と更紗の感情が沁み込んできて、胸が苦しくなった。どれほど、文と更紗は辛い経験をしてきたのだろう、孤独を感じてきたのだろう、そして2人はどれほどお互いを想っていたのだろうと想像すると、自然と涙が溢れてきた。それから、観終わった後も、2人のことをずっと考えてしまう…それほど、深く心に響いた作品だった。

 特に印象に残っているシーンは、子ども時代の更紗が、文に夜中に襲ってくる恐怖について打ち明けた時に、文が黙ってスプーンをとりにいき、更紗の隣に座って一緒にアイスを食べてあげるシーンだ。あの行動だけで、文が優しい人であることがわかる。更紗は、どれほどホットしただろうか。この瞬間は、二人の心の距離を縮めた出来事の1つに違いない。

 文と更紗をみていると、恋愛感情とかでは全くなく、もっと心の奥深いところで通じ合っているのだろうと感じた。そして、それは日常において多くの言葉を必要とせずに、いろいろなことが感覚的に通じあえる関係なのだろう。そんな風に心の拠り所となれる人が存在しているということは、少し羨ましくも思った。

 そんな2人を、なぜ世間は放って置くことができないのだろうか。2人はただお互いを必要としているから一緒にいるだけで、誰にも迷惑をかけていないのに…
世間は、大多数と異なる場合、一般論と異なる場合、「普通」じゃない場合、放って置かずにはいられない。見て見ぬふりをしてくれない。そんな世の中で「普通」から外れた人たちが、どれほど生きづらいかを本作は教えてくれる。