kimmaのシネマブログ

映画とたまに本・ドラマの感想・自分なりの解釈について。あくまで1個人の意見です…

『ボイリング・ポイント/沸点』

〇作品概要

・2021年製作のイギリス映画

・監督:フィリップ・バランティー

英国アカデミー賞にて、英国作品賞、キャスティング賞、主演男優賞、新人賞にノミネート

・90分間全編ワンショットで撮影。編集・CGなし

〇感想・見どころ 

 全編ワンショットという初めての体験に感動した。観ている間はワンショットであることが変に気になりすぎることはなく、あるレストランの裏側をこっそり覗いているような、どちらかというとドキュメンタリーを観ているような感覚に近かった。ワンショットにも関わらず、想像以上にカメラが店内外を行ったり来たりし、焦点を当てる登場人物も頻繁に変わるため、これを一発でしかも編集なしで撮ったというのはどんな神技なのかと衝撃を受けた。ワンショット故に、恐らく俳優たちは自分にカメラが向いていない間も演技をしなければならなかっただろう。そうすると”非常にリアルに近いフィクション”を観ていたということになり、かなり稀有な体験をしたと感じた。

 また、描かれる人間ドラマも非常におもしろかった。経営者が全く現場のことを理解していないが故に、現場からしてみれば無理難題を常に押し付けてきて、結果的に現場が荒れていても経営者は気づいてすらいないという状況は、多くの人が一度は見たり体験したことがあるのではないだろうか。それ故に、登場人物たちの気持ちも非常に想像しやすく、こういう職場や組織ってあるよねと、うなずきながら作品を楽しめた。さらには、レストランで働いている人たちの人物背景やキャラクターも非常に興味深く、みどころであった。本気で料理と向き合っている人もいれば、アルバイトだからと適当にさぼりながらやっている皿洗いの人、同僚を口説きながら働くホールの若手、職場に慣れていない新人の料理人…など様々な人物が登場するが、どの人物も必ず組織に一人はいそうなタイプで、まるでレストランの職場は社会の縮図のようだと感じた。そのため、トラブルが起きた時の対処方法や、上司から注意された時の態度など、登場人物それぞれの細かな言動や行動を観察するのも楽しく、本作のみどころの一つであった。