kimmaのシネマブログ

映画とたまに本・ドラマの感想・自分なりの解釈について。あくまで1個人の意見です…

『彼女が好きなものは』監督:草野翔吾

感想・見どころ 

 ティーン向けの高校性の恋愛映画かと思ったが、全く違った。この作品が届けてるメッセージは、子どもも大人も、社会の中で生きている人ならだれもが知るべきことだ。

 

※以下多少のネタばれ含みます

①斬新な設定とストーリーに引き込まれる

  BL好きの腐女子の三浦さんは、実はゲイであるクラスメイトの安藤君とひょんなことから親しくなり、安藤君のことを好きになってしまう。そして、三浦さんからの告白をきっかけに、2人は交際を始める。この衝撃的な展開に、2人の交際がうまくいくのかが気になり、とにかく続きを観たくなる。また、前半部分は、ちょっと変わった高校生たちのほっこりする恋愛映画に思えなくもないが、ある出来事をきっかけに物語は驚くべき展開を見せる。なんと、安藤君が教室の窓から飛び降りて自殺未遂をするのだ。この中盤に起こる衝撃的な出来事は、物語を一気に不穏な空気にさせる。そこから先ににどのような展開が待ち受けているのか、興味をそそられずにはいられない。

②痛切に描かれた、”普通”とは違う人たちの生きづらさについて考える

  三浦さんは、過去にBL好きを友達に告白した際に、嫌悪されたことがトラウマで、学校では腐女子であることを隠している。このような経験は、誰もがあるのではないだろうか。何を好きになろうがその人の自由にも関わらず、好きになったものが普通と異なると、世間は「へー」では終わらせてくれない。安藤くんにとっては、その偽りは自分のアイデンティティに関わることである。だからこそ、本気で死にたいと思ったのだろう。病室で、安藤くんがゲイとして生まれてきた苦しみを、母親に赤裸々に告白する姿には、胸を締め付けられずにいられない。自分が望んでゲイになったわけではないし、ゲイである自分を一番嫌悪しているのは自分だという胸の内を聞くと、そんな彼の苦しみも知らずに、ゲイというだけで形見がせまくなってしまう世の中に悲しくなった。

 三浦さんは、安藤くんを拒絶せずに彼の気持ちを「想像したい」という。他人の気持ちを想像すること…それは映画を観る時に、私たちがいつも自然とやることだ。それを、なぜ私たちは現実世界で実行することができないのだろうか。

 この作品は、”普通”とはちょっと違う人たちの生きづらさがしっかりと描かれている作品だ。そして、誰もが自分な好きなものを、素直に「好き」といえる社会に変える力を本作は持っていると私は思う。安藤くんの周りにも、三浦さんをはじめ「想像したい」と思ってくれる人がいることに、そのような社会を実現できるはずだ、という少しの希望が残った。