kimmaのシネマブログ

映画とたまに本・ドラマの感想・自分なりの解釈について。あくまで1個人の意見です…

『ビューティフル・マインド』監督:ロン・ハワード

〇作品概要

・2001年公開のアメリカの伝記映画

・第74回アカデミー賞にて 作品賞・監督賞・助演女優賞・脚色賞を受賞

・作品内容(簡単に)

ノーベル経済学賞を受賞した天才数学者ジョン・ナッシュの実話を元にした物語。ジョンは、天才故に難解な数学を解いていくちに次第に心もむしばまれていく。そんな彼を支えた妻アリシアとの愛の物語。

〇感想・見どころ ※ネタばれ含みます

 この映画は、中盤で起こるあることをきっかけに、作品に対して抱いている印象がガラっと変わる。そこから、これまでにない映画体験と感動を私たちに与えてくれる。

 物語は、人付き合いが少し苦手なジョンの大学院での生活から始まる。やがて、研究所で働き始めた彼は、その才能を認められ、ソ連の暗号を解読するという国家機密の任務を任されるようになる。しかし、ジョンが暗号を解読していることを知った敵が、銃を持って襲ってくるという事件が起こる。この事件をきっかけに、ジョンは、常に敵がどこからか自分を狙っているのではないか、という幻覚をみるようになる。ここまでで、私たちは「ああ、ジョンはこうして日々見えない敵に襲われ、心を壊していくのだろうな」と物語の展開を予想する。

 しかし、この予想は大外れで、中盤にて私たちは驚くべき真実を告げられる。それは、ジョンの幻覚は大学院時代から、つまり物語の冒頭から既に始まっていたということだ。当然、国家機密の任務なんてものも存在しない。この種明かしにより、ではこれまで描かれていたものはどこまでが真実で、何がうそなのだろうか?という混乱を、私たちはジョンと共に体験することになる。これまで自分が観てきたものは、存在しないのかもしれないという、とまどいと衝撃と不安は、もしかしたら実際に統合失調症の人が感じるものと似ているのかもしれない。

 もちろん、私たちは視聴者であるため、次第に何がジョンの幻覚で、何がそうではないかを見極めることができるようになる。しかし、物語の中のジョンは、簡単に判断できるようにはならない。これにより、これまでジョンに感情移入していた私たちは、次第にジョンが遠い存在に思え、彼を客観的に見ることしかできなくなるという不思議な感覚に陥るのだ。客観的に見る彼の世界は、まさにカオスであり狂気で、統合失調症の人たちが抱える苦しみを垣間見せる。そんなジョンに対して、私たちが嫌悪すら抱き始める頃、妻アリシアはジョンに真実を見極める方法に関しての優しい言葉を投げかける。このシーンは、作品の中で最も感動し、印象に残るシーンだ。そして、私たちはやっと、この作品が精神病患者の狂気の物語ではなく、夫婦の愛の物語であると確信するのだ。

 本作品は、統合失調症の患者本人の視点と、それを支える周りの人の視点という、2つの立場の経験をする機会を与えてくれる。だからこそ、妻の夫の寄り添う姿に心から感動するのだ。