kimmaのシネマブログ

映画とたまに本・ドラマの感想・自分なりの解釈について。あくまで1個人の意見です…

『ぼくのエリ 200歳の少女』監督:トーマス・アルフレッドソン

〇感想・見どころ ※ネタばれ含みます 

  本作の不気味さは、ヴァンパイアであるエリたちが、妙にリアルな存在に感じられる点だ。エリたちは、殺風景な部屋で窓に段ボールを貼って太陽の光が入らないようにしたり、人を殺すための道具と、さらにはその人の血を採取するための道具を身近なもので自分たちで作るなど、人間世界で生き残るために、様々な工夫を凝らして生活している。それらの行動が、とても現実的であるが故に、本当にエリとエリの父親がどこかに実在しているように感じてくるため、観ているうちに恐怖感が募っていった。また、全体を通じて完全な静寂に包まれており、かつ、真っ白な雪があたり一面に積もっている情景が、より一層不気味な雰囲気を醸しだしていた。それらの気味悪さ故に、エリたちが一体何者なのか、逆にその正体が気になって仕方がなく、どんどん作品の世界に引き込まれていった。

 また、本作のおもしろかった点は、後半になるにつれて恐怖を感じる対象がエリたちヴァンパイアではなく、人間に変わっていったことだ。エリとオスカーが、孤独なもの同士、互いに心の空虚を埋めていく様子から、ヴァンパイアは必ずしもただ野蛮なわけではなく、温かな心も持っているのだと私たちは知り、エリが少しずつ怖い存在ではなくなっていく。その一方で、終盤において、いじめっ子たちはついにオスカーを本気で殺そうとする。その瞬間、作品の序盤にエリたちに感じていたのと同じ恐怖心を、今度はいじめっ子たちに感じていることに気づく。そして、オスカーを救出しに来たエリが、いじめっ子たちをどれほど無残に殺そうとも、もうエリに恐怖心を感じなくなっているのだ。このヴァンパイアよりも、自分と同じ人間に対して恐怖を抱くようになっていくという心情の変化が、本作が多くの人を魅力した理由の1つではないかと思う。