kimmaのシネマブログ

映画とたまに本・ドラマの感想・自分なりの解釈について。あくまで1個人の意見です…

『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』監督:湯浅弘章

〇作品概要

・2017年公開

・監督…湯浅弘章

・脚本…足立紳「百円の恋」)

・上映時間…110分

  女子高生の志乃(南沙良)は、うまく話をすることができず、いつも言葉に詰まってしまう。それ故に、クラスで孤立していた志乃は、同じくクラスで浮いていた加代と(蒔田彩珠)とひょんなことから仲良くなり、加代がギターで、志乃がボーカルのバンドを結成することになる。2人は、文化祭で発表することを目標に、夏休みも練習に励むが、同じクラスで同様に浮いていた菊池(荻原利久)がバンドに加わることになったことで、志乃に変化が起こり…

〇感想・見どころ ※ネタばれ含みます

①ありがちな青春バンドストーリーではない。

 本作がおもしろかった点は、冴えない学生同士がバンドを組んで一皮むけて、一躍学校のスターに!という、よくありがちな青春バンドストーリーではなかったことだ。本作が描いているのは、そういう青春ではない。また、中盤でバンドが解散になった後、結局再びバンドが結成されることはない(少なくとも作品中では描かれていない)。このように、本作は至るところで予想外な方向に物語が進む、これまで見たことのない青春ストーリーだ。

②志乃の心の叫びが、胸に響く

 菊池がバンドに加入したことをきっかけに、バンドを辞めてしまった志乃は、文化祭当日に加代が一人でギターを演奏している会場にいきなり現れる。志乃は、加代と一緒に歌い始めるのかと思いきや、歌わない。志乃は、皆の前で自分の思っている胸のうちを、大粒の涙を流しながら、ただまっすぐに打ち明けるのだ。その内容は、「なんで自分だけうまく話すことができないのか?」という、これまでずっと志乃が心に溜めてきた鬱憤とと共に、「うまくしゃべれない自分を最も恥じているのは自分だ!だけど、これが私なんだ!」ということだった。私たちは、人に話す時には無意識的に順序立てて話したり、言葉を選んだりするだろう。しかし、この時の志乃は、”今”志乃が心の中で思っていることを、そのまま声に出しているのだということがわかる。だからこそ、その一つ一つの言葉が胸に刺さり、これまでどれほど彼女が自分と必死に向き合い、もがき、苦しんできたのかが伝わってくる。

 本作は、誰もが学生時代に経験したことのある、自分とは何者なのか、自分はなぜ他の人とは違うのだろうという感情に向き合った少女の青春物語だ。