kimmaのシネマブログ

映画とたまに本・ドラマの感想・自分なりの解釈について。あくまで1個人の意見です…

『ショコラ』監督:ラッセ・ハルストレム

〇作品概要

・2000年製作のアメリカ映画

・121分

アカデミー賞にて、作品賞・主演女優賞・脚色賞など5部門ノミネート

ゴールデングローブ賞にて、作品賞・主演女優賞・作曲賞など4部門ノミネート

・その他多数受賞

〇感想・見どころ ※内容含みます

本作は、ディズニーのおとぎ話のようなナレーションで始まる。そのため、昔々の遠いどこかの本当にあったかも知れない物語…というような世界観が、音楽や舞台となる村など全てから一貫して漂っている点が素敵でよかった。

町を転々としている主人公のヴィアンヌ(ジュリエット・ビノシュ)が、娘のアヌークを連れて今回辿り着いた町は、古風な宗教的な厳しいしきたりを守っている小さな村だった。そこで、何にも縛られずに自由に生きているヴィアンヌたちがチョコレート店を営むことによって、村の人々に影響を与えていくというのが物語の大筋だが、度々出てくる美味しそうなチョコを見ているだけでも、つい笑みがこぼれてしまうような幸福感を感じる作品だった。ヴィアンヌを異端者だと煙たがる人もいる一方で、カカオの香りに誘われて、つい店の中に入ってしまい、つい一口食べてしまうと思わず幸福な表情になり、あっと言う間に常連になってしまう人々の様子が、チョコレート好きとしては共感の嵐で、ワキワキしてしまった。

一方で、本作はただのチョコレートの物語では終わらない。ヴィアンヌは村のしきたりに苦しんでいる人々をチョコレートで癒すとともに、彼女たちを苦しめている根本的な原因を解決してあげようとするのだ。例えば、夫に暴力を振るわれているが、宗教のきまり上離婚はよくないため離婚することができず、心も体もボロボロになっていた女性には、そんな決まりを守る必要なんてなく、あなたの人生はあなたのものだ!と諭し、彼女を夫の元から連れて出してあげる。そのようにして、厳しい規律を守ることは当たり前だと思い込み、知らぬ間に自分たちの首をしめている村びとたちに、ヴィアンヌは「絶対にこうしなくてはいけない」というものが存在しないことや、何よりも人生を楽しむことは素晴らしいことなのだ、ということを教えていく。村の中では孤立している考え方だとしても、自分の正義を貫き、分け隔てなく人々に救いの手を指し延べるヴィアンヌの姿からは、改めて思いやりがどういうものかということや、正義を貫く勇気を学ぶことができる。

そして、最も心に響いたのは、ラストで村の神父が村人に向かって送る言葉だ。「人間の価値は何を禁じるのか、何を否定するのかではなく、何を受け入れ、何を歓迎し、何を創造するのかで決まるのではないだろうか」ということを村人全員に向かって伝える。このセリフこそが、まさにこれまでヴィアンヌが村人たちに伝えたかったことに違いないと胸がいっぱいになると同時に、この言葉は厳しい戒律を守っている人だけではなく、どんな人も心にとどめて置くべき素敵なセリフだと思い、この言葉を聞いた瞬間本作を観てよかったと心から感じた。

多数の受賞歴があるだけに、ファンタジー要素もありつつ、本作のメッセージ性はとても素晴らしいもので、かつそのメッセージをを優れた物語の構成によって納得感のあるように伝えられている点が大変魅力的だった。

 

 

 

 

 

 

 

『ピザ!』監督:M・マニカンダン

〇作品概要

・2014年製作のインド映画

・90分

〇感想・見どころ ※内容含みます

一見コメディ映画と見せかけて、貧困問題や、児童虐待、大人の姑息さなどをさりげなーく入れてくるところが、ほんっとに秀逸で、ストーリーも終始飽きることなくおもしろかった。

スラム街に住む学校にも行けていない貧しい兄弟は、ある日テレビでピザを見て以来、ピザが食べてみたくて仕方がない。そこで、石炭集めをして、地道にピザ代を稼ぐことにする。そして、何日か後にやっとピザ代が貯まった兄弟はピザ屋に足を運ぶのだが、スラム街の子供が来る場所ではないと門前払いをくらってしまうのだ…。何日間もかけて一生懸命にピザ代を稼ごうとする幼い兄弟を見ているだけで、なんだか泣けてくるし、今すぐにでも彼らにピザを買ってきてあげたくなる(笑)それにも関わらず、門前払いをする大人がいるとは!兄弟がどれほど汗水を垂らして、ピザを食べることを待ちわびていたことか!!それでも心折れずに、今度は見た目で判断されないように新しい服を調達しようと、再び石炭集めに励む子供たちの姿に切なさがこみあげてきた。

そうして、兄弟たちは見事新品の服を身に付けて、再びピザ屋を訪れる。やっと彼らにピザを食べさせてあげられる!と嬉しくなったのもつかの間で、なんと彼らは再び入店を拒否されてしまうのだ。なんてひどい世の中なのだ!と、憤りすらも感じ始めた頃、そこからストーリーは思わぬ展開を見せ始める。そして、予想外の形で兄弟たちはピザを食べるという夢を叶えることになる。その夢が実現された背景には、悪い大人や心の小さい大人、お金に目がくらんだ大人などが要因となっているところが、非常におもしろい。純粋でまっすぐな兄弟たちとは対照的に、大人たちの悪賢さが滑稽に描かれているのだ。どうか兄弟たちには、彼らのような姑息な大人にはならないでほしいと願わずにはいられない。感動も笑いも涙も、全てが詰まった素晴らしい作品だった。

ぜひ、兄弟たちがどうやってピザに辿り着けたのかを作品を見て確かめて頂きたい。ついでに、念願のピザを食べた彼らの感想も聞き逃さず…笑

『スワンソング』監督:トッド・スティーブンス

〇作品概要

・2021年製作のアメリカ映画

・実在の人物であるパトリック・ピッツェンバーガーがモデルになっている

〇感想・見どころ ※ネタばれ含みます

 序盤までは、過去の栄光にしがみついてるちょっと痛いおじさんの話か…と正直思っていたのだが、途中からあれ??なんかかっこいいなと思い始めた。そして、作品を観終わった時には自分の考えが180度変わっていて、しがみつきたくなるほどの過去の栄光があるってかっこいい!そんな風に後から振り返っても、誇りを持てるような人生を送るってすごいことじゃん!と思うようになっていた。

 パットこと、パトリック・ピッツェンバーガー(ウド・キアー)は今は老人ホームにいるおじいさんだ。ある日、亡くなった親友が、死に化粧をパッドに依頼したいと遺言書に残しいたことを知り、パッドは老人ホームを抜け出して亡き親友に会いにいく旅に出る。はじめはジャージのダサい恰好のパッドだったが、ミント色のスーツに着替えたら全くの別人になり、その様はさすが昔の美容師のカリスマ!というところ。服装で人の印象ってここまで変わるのか!と衝撃を受けた。昔と比べて町も人も大きく変わってしまっているけれども、パッドの心は折れず、かつて自分が踊っていたゲイバーで再び踊りを披露し観客を魅了する。そんな彼の姿からは、過去の栄光にしがみついて何が悪い!自分は今もカリスマ的存在であり、その能力は健在だ!という自信が伝わってくる。その高慢さが、始めはちょっぴり痛いと思っていたが、気づけば清々しいと思うようになっていた。しかも、その自信をちゃんと裏付けるように、パッドの才能は衰えていないのだから、観ている方は彼に乾杯するしかない。

 将来人生を振り返った時に、パッドのように今の自分を誇りに思えるだろうか、未来の自分を支えられるような生き方を現在しているだろうか…そんなことに気づかせてくれる作品だ。

『百花』監督:川村元気

〇作品概要

・2022年公開

ワンシーンワンカットで撮影

〇感想・見どころ ※ネタばれ含みます

本作では、認知症と診断された百合子と、母である百合子に向き合う息子の泉の様子が描かれているのだが、泉の妻に言わせると2人はちょっと変わった親子だ。なぜなら、過去に百合子が泉を置いて1年間男のところに行き帰ってこなかったことがあり、泉はそれを忘れられず、百合子と微妙な距離間を解消できずにいるからだ。そんな2人の現在の姿が、時折過去の回想を交えながら描かれる。

そのような物語の中で終始まとわりつくのは”記憶”だ。泉が、職場でヴァーチャルヒューマンアーティストを創るという業務をしている際、記憶を詰め込みすぎたからうまくいかなかったのか?記憶を忘れる機能があった方がよいのか?という意見が交わされたる場面があったり、「記憶が盗まれるって怖い」とセリフがあったり、百合子が認知症であることからも”記憶”とは一旦何なのだろうかということを無意識的に考えさせられる。そして、記憶の中でも、特に家族との記憶は、親にとって、子にとってそれぞれどいういう風に残り、何が色合わせていくのだろうかと自分に重ね合わせて考えてしまう。百合子と泉の大切な思い出でである”半分の花火”を、認知症の百合子が覚えていたのに、泉は覚えていなかった。そんな切ないことが判明した時に、泉は、あの時百合子は自分を捨てたわけではなく、自分を愛していなかったわけでもなかったのだと思えたのかもしれない。そして、百合子の過ちを許すことができたのかもしれない…。多くの記憶を共有している相手の記憶が失われていくことを目の当たりにする苦しみと、そんな中でも残り続ける記憶の美しさに、感極まるような作品だった。

また、全体的な雰囲気としては、度々ピアノの音色が響き渡る感じや、時代・記憶が錯綜する構成において洋画のような雰囲気を纏っている作品だと感じた。

 

個人的な感想としては、なんだか泉に完全に感情移入してみることができず、終始客観的にみてしまう自分がいた。その理由は、私が女だからだろうかと思い、この作品を観て改めて母と娘の関係と、母と息子の関係というのはまたちょっと違うのだろうなと改めて思った。

 

『青の炎』監督:蜷川幸雄

〇作品概要

・2003年公開の邦画

・原作 貴志祐介「青の炎」

〇感想・見どころ ※ネタばれ含みます

冒頭シーンがとても印象的だった。主人公の秀一が体を丸めて大きな水槽のような中で横になっている。ぼっとしているかと思うとふと起き上がり、お気に入りのロードバイクを押しながら、自分の部屋として利用しているガレージの扉を思い切り開ける。すると、薄暗かった部屋に一気に光が差しこんでくるのだ。その雰囲気はなんだか神秘的な感じがして、これからすごい物語が始まるような予感を起こさせた。

また、秀一が義理の父を殺すために学校を抜け出し、父を殺すまでの一連のシーンも強く記憶に残った。秀一は、太陽がギラギラと輝く中を大粒の汗をかきながら、ひたすらにロードバイクをこぐ。その荒い息遣いから、これから人を殺すのだという彼の焦燥と緊張感、それ以外のことは一切頭にないというような心情がヒシヒシと伝わってきて、こちらも思わず息をするのを忘れてしまうようなシーンだった。

原作の作品紹介で日本版の「罪と罰」だと記載があったが、なるほどととても共感した。警察は、秀一が同級生を刺した理由を、同級生は秀一が父親を殺したことを知っていたために口封じで殺したと言っていたが、果たしてそうだろうか?私には、秀一が同級生を刺すという計画を立てた時、そして同級生を実際に刺した時に、このまま逮捕されて、運良くバレなかった義理の父の殺人の罪を償いたい、と思ったのではないかと感じてならなかった。だからこそ、彼は事件直後は罪を認めないものの、警察に全てバレたという確信を得ると、素直に諦めるのだ。それでも、最終的に自ら命を絶つという選択をしたのは、罪を犯した自分に耐えられなかったという点と、自分が殺人犯になったら母と妹に迷惑をかけることが申し訳ないと思ったからだろう。そもそも、義理の父を殺した動機は、家族を救うためだったのだから、後者の理由は秀一に相当重くのしかかってきたに違いない。そのような秀一の犯した罪への苦悩が、2時間の中で自分にも同じように押し寄せてきた点において、物語の構成や演出が優れていると感じた。

 

 

 

『この子は邪悪』監督:片岡翔

〇作品概要

・2022年公開のサスペンス映画

・TSUTAYA CREATORS’ PROGRAM FILM 2017 の準グランプリの映画化

〇感想・見どころ ※内容含みます

 冒頭から不気味さ全開で、一気に気味が悪くなった笑 本作品は、全体を通してとにかく音楽の使い方がうまかった印象。不気味な音楽が絶妙なタイミングで流れるので、それが余計に怖さを増大させる。ホラー映画が苦手なのだが、本作はホラーではないからいけると思って観に行ったのだが、想像以上に怖かったw 幽霊的な怖さというかゾッとする気味の悪い感じの怖さだ。

 この作品はいい意味で裏切られることが多く、はじめに懐疑的に思っていたことが、後半で徐々に明らかになっていく展開が爽快だった!!正直、はじめの方はウサギを大量に飼ってる家とかある?設定に無理ない??と思っていたのだが、まんまと騙された…!!ウサギではなくていけない理由がちゃんとあったのだ。また、お面を付けている妹の外見から、「この子は邪悪」の”この子“は妹のことで、妹が何かするのだろうなーと思っていたら、それもちがった。”この子“は全く予想だにしない人で衝撃!

予想していた真相とは全然違くて、何度も裏切られる展開が楽しかった。また、真相は全てちゃんと明らかにしてくれるのでスッキリして劇場を出れる点もよかった。

あとは、やっぱり南沙良の演技が相変わらずうまかった。口数は多くなくて、かつ結構ありきたりの感じのセリフばかりだった印象だが、それでも全てが自然だった。物語に引き込まれる要素に、南沙良の演技力がかなり大きく貢献していると感じた。

『千と千尋の神隠し』監督:宮崎駿

〇作品概要

・2001年公開のジブリ作品

ベルリン国際映画祭にて、金熊賞を受賞

アカデミー賞にて、長編アニメ映画賞受賞

 その他、多数の賞を受賞

〇感想・見どころ ※内容含みます

公開当時、劇場で観た時以来の鑑賞だったのだが、詳細までストーリーを鮮明に覚えていたことに自分でも驚いた。初めてみた時から今日までいくつもの映画を観てきたが、それにも関わらず、あの世界観に引き込んでいく力はやはり圧倒的に秀でていると感じた。最近ジブリ作品をよく観ているのだが、どの作品も大人でも一瞬で物語の中に連れていかれ、気づいたら主人公と一緒にワクワクしているのだ。宮崎駿の偉大さを改めて感じた。本作の魅力を語り出したらキリがないが、以下で3つだけ述べようと思う。

①あの世界に引き込まれる理由

本作品のこの没入感の原因を考えみた時に思い浮かんだことは、終盤に銭婆の元へ行く以外は、舞台が油屋で完結していることによってあの世界を想像しやすくなっているのではないかということだ。千尋は、作品の中で油屋の屋敷内外をよく走り回る。そのため、あの建物がどのくらいの大きさで、どんな内観・外観なのかが脳裏にはっきりと浮かんでくるたのだ。また、油屋の前にある屋台街(?)や豚小屋なども度々するため、油屋付近の構図や雰囲気も大体想像することができる。このように、油屋と街並みを鮮明にイメージすることができることによって、あの世界観がより一層伝わってきて、気づけば自分も千尋と共にあの世界にいるような感覚に陥るのではないだろうか。

②記憶に残る理由

ストーリーが記憶に残る一番の要因は、やっぱりあの個性豊かなキャラクターたちではないだろうか。湯婆婆やリンをはじめ脇役のキャラクターたちはどれも個性豊かで、なんだか全員に愛着が湧いてきてしまう。ジブリ作品の中でも特に、登場人物がかなり多いのではないかと思うのだが、見た目のインパクトも加わり、どのキャラクターも一度見たら忘れない特徴を持っている。そして、作り手の技術によって、全員が物語の中で生き生きとしているのだ。だからこそ、記憶に残るのではないだろうか。

ジブリの美しい”水”

個人的に好きな光景は、雨が降ったことによって油屋の周りが一面海になった時の美しい風景と、その中を電車が走っていくシーンだ。まるで海の上を電車が滑っていくようで、なおかつその海に空模様が反射しているのがとても美しい。もののけ姫でのシシ神が現れる池のシーンもそうだが、ジブリ作品に出てくる水はどこか神秘的でとても好きだ。

 

本作は、繰り返し見て深読みする事を楽しむこともできるとは思うが、基本的に1度観れば理解できるストーリーだと思う。それにも関わらず、何度も見たくなってしまう中毒性がある。何度でも千尋と共にあの世界に行き、おにぎりを食べながら一緒に泣いたり、湯婆婆を恐れたり、ハクの背中に乗って空を飛びたいと思ってしまう。その理由はもちろん上記に述べた以上にたくさんあるが、それがジブリ作品の偉大さであり、その魅力に心を動かされた人が世界中にいるということになんだか嬉しくなった。